子供タクシー
今は子供タクシー(キッズタクシー)というのが広がりつつあり、子供だけでタクシーに乗れるようなサービスが増えています。
昔は馴染みもなく、子供たちだけでタクシーに乗るというのは考えられませんでした。
そんなころの話です。
一部の地域や学校に学童保育の制度がないところがありました。
学童保育を運営するNPO団体からタクシー会社へある依頼をいただいたのです。
「タクシーで子供たちを送迎してほしい」
ということでした。
子供たちだけをタクシーで送迎することは、当時は珍しくやったこともなかったのでどうなんだろうか。
と考えてしまいました。
子供の命を預かるという面では、とても責任がある仕事だと思いました。
サービスを始めてからは、子供の親からのクレームや、こちらの言うことを聞かない子供もおり、ドライバーは大変な思いをしました。
どうしたらいいんだろう。と同僚らと考える日々。
子供を扱うことに迷いや不安が生じていました。
数日が経って、思い切って上司に相談してみました。
子供たちをお客様として接するのももちろんいいとは思いますが、そうすると勘違いをしてしまってよくないことではないのか。
という思いから、「子供たちのしつけをしたい!」と伝えました。
子供たちと接するなかで、きちんとしたしつけをする、育てるという意識をもつべきではないかと、私もひとりの子を持つ親として感じていました。
同じ地域にいるというところもあったのかもしれません。
上司はとても驚いていましたが、納得してくださり、共感さえもしてくれました。
それから、全ドライバーに私たちの気持ちが伝えられることになりました。
数カ月後、学童保育を運営するNPO団体の総会がありました。
その際来賓として社長が招かれており、席上でこうスピーチしました。
「弊社のドライバーはみなさんのお子様をしつけさせていただきます。
しつけに遠慮はしません。良いこと、悪いこと、きちんと教えます。
場合によっては、厳しく叱ることもあります。
『地域みんなで育てる』という意識がとても重要だと考えられるからです。
もし、それがいけないとおっしゃるおやごさんがいらっしゃいましたら、弊社はこの仕事をきっぱりお断りいたします。」
タクシー会社に子供を委ねるというのが、不安だという声やこの発言でクレームがあるかもしれないと思いつつも発した言葉でした。
ところが社長が話終えてからすぐに、大きな拍手が起こり出席していた小学校の校長たちも賞賛してくれていました。
それ以来、ドライバーと子供たちが親子のような関係となり、とても絆の深いものになっていきました。
このような子供たちが何十人と巣立っていったのです。
卒業する時には自分の子供のように嬉しく、また切なくもなったものです。