一泊二日の温泉旅行


ある日、いつものように出社すると「一泊二日でお客様をご案内してほしい」という業務依頼がありました。
場所は伊豆でした。会社から距離もあり、不安でしたが、二日間とも貸し切りで、何をしても自由な旅。ということになりました。
お客様はご家族で、脳梗塞を患った身体の不自由なおばあ様と旦那様、息子夫婦ということでした。
四人の家族旅行が始まったのです。

お客様のもとへ行く前に観光名所をリサーチして、行く場所をある程度決めてから、ガイドブック片手に向かいました。
私は一泊二日という時間のご案内は始めてでしたので、とても緊張していたのです。

伊豆に行くまでに観光名所がいくつかあり、山側や海側を通るルートによって寄れる場所が変わっているので、どちらに行きたいのかお客様へ尋ねました。
「運転手さんにお任せします」
ということで、どうしようか・・・と思いつつ首都高速に乗るまで雑談して、お客様の好きそうなルートを考えました。

その結果、海側のルートに行こうと決めていくことにしました。
もちろん心強い味方のガイドブックも一緒です。

ある神社にご案内をしたところ、奥の本殿まで行きたいとの要望があったので、社を出るときに用意していたおんぶ紐をだしました。
脳梗塞を患った身体の不自由なおばあ様は、歩くことができないため、誰かがおんぶすることが必要だったのです。
おんぶ紐があれば、参道の階段もスムーズに登っていけると思いました。
しかし、おばあ様は「車椅子で参拝したい。」とのことでした。
困ったな・・・と思っていれば、参道の階段の横にはスロープが見えたので、ホッとしました。
かなりの急こう配でしたが、何よりおばあ様が車椅子で登ることができてよかったです。
なんとか無事にご家族みんなで参拝し、境内を散策しました。

そのあとホテルにもついて、この日は終わりました。

次の日は温泉でゆっくりしてから、お土産屋さんを巡り、おばあ様の介助や荷物をトランクに詰めたりと、とにかく夢中になりお客様のために動きました。
そして帰路に向かいました。

お客様のご自宅へ近づくにつれて、緊張や不安が押し寄せてきました。
長い時間一緒にいてどうだっただろうか?
自分はサービスをきちんと提供できたのだろうか?
お客様は満足していただけたのだろうか?

しかし、家に着いた時に答えがわかりました。

「ありがとう。」
おばあ様が声を振り絞って一生懸命伝えてくださいました。
その瞬間、この仕事をしていて本当に良かった!と熱い思いがこみ上げてきました。

サブコンテンツ

タクシードライバーのコラム集

このページの先頭へ